God's in his heaven
<< February 2020 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 >>
<< イケメン落語「はてなの茶碗」「笠碁」 | main | グレイテスト・ショーマン ★★★★☆ >>
飛 浩隆「自生の夢」★★★☆☆

ずっと新刊を待っている作家の一人に、飛 浩隆がいる。
昔、少し気になるという程度であらすじも読まずに「グラン・ヴァカンス」を購入したのだが、今となってはあの時少し考えた方がよかったかもしれないとさえ思う。
私がSFを好きだったのは小学生までで、その頃あらかた有名なSF(海外のもの)を読み終えてしまっていて、中二で中井英夫に出会い、現在に至る。
それからずっとミステリーと幻想小説と純文学漬けだった所為か、すっかりSFというか未来の話に興味がなくなっている。
小学生の頃は大好きだった宇宙も、あの地に足がつかない感じが気持ち悪くて今は特に興味がない。
それなのに、私は「グラン・ヴァカンス」を読んでしまった。
衝撃以外の何物でもなかった。
確実にSFなのだが、何にカテゴライズしたらいいのかわからない。
忘れ去られたゲームの中のAIたちの戦い。
データが突然発生したバグ(になるのだろうか?)に飲まれて消えるだけの話だが、それがまた物悲しかった。
こんな面白いSFがあっただろうか、と一気に読み終えた。
飛 浩隆の入門書としては一番わかりやすく世界もさほど難解でない「グラン・ヴァカンス」で正解であったと思うが、ここからがしんどいのだ。

とにかく新刊が出ない。

運良く、「グラン・ヴァカンス」の続編である「ラギッド・ガール」は続けて読む事が出来た。その続きは「園丁の庭」だ。

あれから10年経ったが、「園丁の庭」は未完の長編と「自生の夢」のあとがきに書かれていた。
未だ終わっていなかったのか。

あれから10年。
やっと出た新刊が、この「自生の夢」という短編集のようだ。
正直、「グラン・ヴァカンス」ほどの面白さは感じなかった。
少し難解になった「象られた力」という感じだ。設定の凝り方や世界の作り込みは半端ないが、大きな話の展開がない所為かもしれない。
強いて云うならば「海の指」が一番物語性があるだろうか。海の全てと陸の大半を「灰洋」に飲み込まれた未来の話である。
漫画の原作だったらしいが、これを渡された漫画家さんは大変であっただろうなと思う。私には無理だ。
世界の終わりのような状況だが、それを受け入れ普通に暮らしている人類からは恐怖の感情は読み取れない。
いつか、全てが飲み込まれ終わるだろう。
飛 浩隆の話は、どんなにスケールが大きくても何処か箱庭的だ。

この短編集のメインはアリス・ウォンという天才詩人と言葉だけで何人も殺した男が出てくる「自生の夢」の連作だ。そう書くと何かとてつもない事件が起こりそう、いや実際に事件は起こったのだが、話の展開としては何も起こらない。もう二人は死んでしまっているからだ。
生前残した言葉から演算し、死んだ人間を蘇生させインタビューをするという内容だ。
全ての物体は粒子の塊であり、それらの構造やパターンを完全に演算出来れば、あるいはこうした事も可能であり、アリスのように言葉によって殺される事も全く不可能ではないのかもしれない。
よく考えるととてつもなく怖い話であり、その未来に光はない。
それなのに読後感の悪さがないのは、人類の終末に恐怖や不安を感じる事すらも、意味がないのではないかと思わされているからなのかもしれない。

自分がこうして残した文章から演算され、かつて生きていた「私」と言う現象が普通に再現される未来があるのだろうか。


 

評価:
飛 浩隆
河出書房新社
¥ 1,728
(2016-11-26)

COMMENT









Trackback URL
トラックバック機能は終了しました。
TRACKBACK